オトシテキタモノ

 

 

「オトシテキタモノ」

 

深い森に 小径のようなものあり

深い森に 小川のようなものあり

この先は はっきりとは見えなくて

この後ろは ぼんやりとかすんで見えている

その道に その流れに

石ころのような 宝石のような

鈍く しかし キラリと輝くものあり

 

「落としましたよ」

あるひとがわたしにさしだす

 

「これ、あなたのでしょう?」

またあるひとがわたしに手渡そうとする

 

言われるがまま、わたしは受け取り

てのひらのうえで じっとみつめる

 

そうだ。

この石ころみたいな 宝石みたいなものたちは

全部 わたしの落としてきたもの

 

そうだ。

この鈍く光るものたちは

全部 わたしが落としてきたもの

記憶の中に

全部 わたしが落としてきたもの

 

思い出と呼ぶにはあまりに 足りなくて

出来事と片付けるにはあまりに まぶしい

 

そう。

この石ころたちは 私自身

そう。

この宝石たちは 私自身

 

「拾ってくれて、ありがとう」

そう一言告げて、わたしは立ち去ることにした

 

石ころはその場に そのまま置いていこう

宝石もこの場に このまま置いていこう

足跡みたいに わたしのうしろに置いていこう

 

三日月が照らす この小径を

三日月が映る この小川を

 

わたしは 前を向いて 歩いていきたいから

前に向かって 進んでいきたいから

 

 


言の葉/小川葵(詩人)

小川葵HP